2012年12月9日日曜日

マイナンバー法案勝手逐条解説:第3条第3号

第三条 個人番号及び法人番号の利用は、この法律の定めるところにより、次に掲げる事項を旨として行うものとする。

三 個人又は法人その他の団体から提出された情報については、これと同一の内容の情報の提出を求めることを避け、国民の負担の軽減を図ること。


本条は、個人番号及び法人番号を利用する際の心構えについて規定するものである。本条の最大の特徴は主語が明示されていないことである。これは、基本理念を示す条項において一般的な特性である。行政庁及び独立行政法人等は、本条の対象か否かを自ら判断することが求められる。また、簡易な手続きを設けるためには新たな法律や既存の法律の改正が必要な場合もあり、行政機関における法制に関する事務の実施に際してや立法府に対するメッセージでもある。ただし、行政機関、地方公共団体その他の行政事務を処理する者に対する義務を規定していると解してはならず、立法趣旨を示したものと理解すべき条項である。

第3条第3号は、行政庁及び独立行政法人等全体として、同一の情報の提供を求めることによって国民に負担をかけないようにすべきという趣旨が述べられているものである。
法人情報の利用については、個人番号のような「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」という。)」のような保護規定が存在しないことから、みだりに利用することは避けるべきであるものの、同一の内容の提出を避けるために利用することには問題はないと考えられ、行政庁及び独立行政法人等は法人の負担を減らすよう取り組みを進めていくことが求められる。

一方、個人情報については、個人情報保護法により(行政機関以外の場合は省略)、「行政機関の長は、法令に基づく場合を除き、利用目的以外の目的のために保有個人情報を自ら利用し、又は提供してはならない。」とされており、異なる行政機関が取得した情報及び同一行政機関においても異なる目的(事務が異なれば異なる目的で取得したと解される)で取得した情報を利用することはできない。この点について、マイナンバー法案はその第24条第1項において、個人番号を含む特定個人情報の場合には以下のように個人情報保護法第8条を読み替えるように規定する(独立行政法人等についても同様の規定が置かれている)。これにより、法令に基づく場合であっても、利用目的以外の目的のための保有特定個人情報を利用することはできなくなる。また、本人の同意があっても利用できなくなる。他の事務で取得した情報を国民の負担を軽減するために利用するには、目的外に利用しなけれればならず、この点が第3条第3項を旨とし行政事務を行う場合には課題となる。

読み替え後の個人情報保護法第8条
第八条  行政機関の長は、法令に基づく場合を除き、利用目的以外の目的のために保有個人情報を自ら利用し、又は提供してはならない。
2  前項の規定にかかわらず、行政機関の長は、次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、利用目的以外の目的のために保有個人情報を自ら利用し、又は提供することができる。ただし、保有個人情報を利用目的以外の目的のために自ら利用し、又は提供することによって、本人又は第三者の権利利益を不当に侵害するおそれがあると認められるときは、この限りでない。
一  人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意があり、るとき、又は本人に提供する又は本人の同意を得ることが難しいとき。
二  行政機関が法令の定める所掌事務の遂行に必要な限度で保有個人情報を内部で利用する場合であって、当該保有個人情報を利用することについて相当な理由のあるとき。
三  他の行政機関、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人に保有個人情報を提供する場合において、保有個人情報の提供を受ける者が、法令の定める事務又は業務の遂行に必要な限度で提供に係る個人情報を利用し、かつ、当該個人情報を利用することについて相当な理由のあるとき。
四  前三号に掲げる場合のほか、専ら統計の作成又は学術研究の目的のために保有個人情報を提供するとき、本人以外の者に提供することが明らかに本人の利益になるとき、その他保有個人情報を提供することについて特別の理由のあるとき。

3  前項の規定は、保有個人情報の利用又は提供を制限する他の法令の規定の適用を妨げるものではない。
4  行政機関の長は、個人の権利利益を保護するため特に必要があると認めるときは、保有個人情報の利用目的以外の目的のための行政機関の内部における利用を特定の部局又は機関に限るものとする。

この点につき、マイナンバー法案は同一の内容の情報の提出を求めることを避け、国民の負担の軽減を図れるようにするために他の行政庁及び独立行政法人等から情報を入手することを可能としている。まず、第17条第7号において、情報提供ネットワークシステムを使用して特定個人情報を提供することを可能としている。次に、第19条第2項において、総務大臣は情報の提供の求めがあった旨を通知しなければならないことを規定している。最後に、第20条第1項において、求めを受けた者は特定個人情報を提供しなければならないことを規定している。他の法により書面の提出を義務づけらられている場合にも、第20条第2項において「当該書面の提出があったものとみなす」との規定が存在するため、文書の提出を求めることは不要となる。このように、提出をもとめる必要がある情報を他の行政庁及び独立行政法人等が保有している場合には第3条第3項を旨として事務を進めることができる。個人情報保護法第8条から「法令に基づく場合を除き」の文言が削除されているとしても、マイナンバー法は個人情報保護法に対して特別法であり、また後法であるから、マイナンバー法案が当然優先される。

一方、自ら(行政庁)の異なる事務を行う補助機関が情報を保有していたり、独立行政法人等の異なる事務で情報を保有していたりする場合に、その情報を利用できるか否かについては、以下の2つの立場がある。
第一の立場は、論理解釈を行うものであり、マイナンバー法案の立法趣旨及びその目的である「手続の簡素化による負担の軽減」を実現するためには、自ら保有する情報を利用することが最も実現が容易な方法であり、他の行政庁及び独立行政法人等の情報の利用でさえ可能なのであるから、当然に自らが保有する情報の利用は可能という立場である。
第二の立場は、文理解釈を行うものであり、個人情報保護法の読み替えにより、本人の同意があってもそのそもの利用目的外には利用できないと読み替えが行われているのであるから、情報の提供を求める代わりに本人の同意を求め、同意を得た場合であっても利用はできないという立場である。第6条の規定により、「個人情報を効率的に検索し、及び管理」するために個人番号の利用が可能であり、個人番号を利用して情報の提供の求めを省略できる情報が存在することは確認することができるようになるが、それによって確認された特定個人情報を情報取得時の目的外に利用可能とするとの規定はマイナンバー法案には存在せず、利用はできない。特定個人情報ではない個人情報であれば本人同意により利用可能となるが、特定個人情報の場合には個人情報保護法第8条の読み替えにより、本人同意を得ても当初の目的外には利用できない。したがって、他の事務で提供を受けた情報を利用することはできない。また、自ら保有する情報を利用する場合には、第20条第2項における「当該書面の提出があったものとみなす」との規定もおかれていないため、書面の提出は引き続き必要と考えられる。
総務省が実施している研究会の資料では、マイナンバー法案「別表第1に規定する事務」では「利用が可能」、「地方公共団体の独自の事務」では「第6条第2項に基づき条例を制定すれば可能」とされており、わが国政府は第一の論理解釈の立場を採用していると考えられる。また、内閣官房社会保障改革担当室が地方公共団体向けに行った説明資料「マイナンバー法案についての地方公共団体向け説明会」資料(平成24年6月20日) でも「自治体内の同一執行機関におけるマイナンバー情報の利用は可能」とされている。ただし、こうした解釈は行政訴訟等において司法の判断を完全に制約するものではないため、行政庁及び独立行政法人等が第一の立場において国民の負担を軽減するための善意から特定個人情報の目的外利用を行う場合には、第二の立場がありえることも配慮の上、その実施を行うことが必要になると考えられる。



(本投稿はパロディです)

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