2013年1月27日日曜日

マイナンバー法勝手逐条解説:第6条(利用範囲)

(利用範囲)
第六条 別表第一の上欄に掲げる者(法令の規定により同表の下欄に掲げる事務の全部又は一部を行うこととされている者がある場合にあっては、その者を含む。第三項において同じ。)は、同表の下欄に掲げる事務の処理に関して保有する特定個人情報ファイルにおいて個人情報を効率的に検索し、及び管理するために必要な限度で個人番号を利用することができる。当該事務の全部又は一部の委託を受けた者も、同様とする。

2 地方公共団体の長その他の執行機関は、福祉、保健若しくは医療その他の社会保障、地方税(地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第一条第一項第四号に規定する地方税をいう。以下同じ。)又は防災に関する事務その他これらに類する事務であって条例で定めるものの処理に関して保有する特定個人情報ファイルにおいて個人情報を効率的に検索し、及び管理するために必要な限度で個人番号を利用することができる。当該事務の全部又は一部の委託を受けた者も、同様とする。

3 健康保険法(大正十一年法律第七十号)第四十八条若しくは第百九十七条第一項、相続税法(昭和二十五年法律第七十三号)第五十九条第一項から第三項まで、厚生年金保険法(昭和二十九年法律第百十五号)第二十七条、第二十九条第三項若しくは第九十八条第一項、租税特別措置法(昭和三十二年法律第二十六号)第九条の四の二第二項、第二十九条の二第五項若しくは第六項、第三十七条の十一の三第七項、第三十七条の十四第九項、第十三項若しくは第十五項若しくは第四十一条の十二第二十一項若しくは第二十二項、所得税法(昭和四十年法律第三十三号)第五十七条第二項若しくは第二百二十五条から第二百二十八条の三まで、雇用保険法(昭和四十九年法律第百十六号)第七条又は内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(平成九年法律第百十号)第四条第一項その他の法令又は条例の規定により、別表第一の上欄に掲げる者又は地方公共団体の長その他の執行機関による第一項又は前項に規定する事務の処理に関して必要とされる他人の個人番号を記載した書面の提出その他の他人の個人番号を利用した事務を行うものとされた者は、当該事務を行うために必要な限度で個人番号を利用することができる。当該事務の全部又は一部の委託を受けた者も、同様とする。

4 前項の規定により個人番号を利用することができることとされている者のうち所得税法第二百二十五条第一項第一号、第二号及び第四号から第六号までに掲げる者は、激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律(昭和三十七年法律第百五十号)第二条第一項に規定する激甚災害が発生したときその他これに準ずる場合として政令で定めるときは、内閣府令で定めるところにより、あらかじめ締結した契約に基づく金銭の支払を行うために必要な限度で個人番号を利用することができる。

5 前各項に定めるもののほか、第十七条第十号から第十三号までのいずれかに該当して特定個人情報の提供を受けた者は、その提供を受けた目的を達成するために必要な限度で個人番号を利用することができる。


第6条は、個人番号を利用可能な範囲を定めるものである。

第1項では、別表第1に示された事務で個人番号を利用できることを規定している。別表第1以外の個人番号を利用できるための制限の第一として、特定個人情報保護ファイルにおいてという規定が置かれているが、個人番号を利用できるように特定個人情報をシステムに登録又は書類で利用できるように並び替えれば特定個人情報保護ファイルとなるため、特に特定個人情報保護ファイルに限定している規定に実質的な制限を追加する効果はないものと解される。第二に、個人情報の検索と管理のために個人番号は利用できると規定されている。検索に利用するとは、情報システムにおいて個人番号を利用し当該者の情報を検索したり、書類の中から当該者の書類を探したりする利用方法と解される。管理のための個人番号の利用とは、情報システムのなかで個人情報が同一人物のものであることを示したり、特定の関係にある者(例えば同一の世帯に属する者)であることを示すための利用と解される。すなわち、情報システムの中で主キーや外部キーとしての利用である。なお、個人番号には、個人番号に対応し、当該個人番号に代わって用いられる番号、記号その他の符号であって、住民票コード以外のものが含まれるため、個人番号を直接PKやFKとして利用せず、他のコードを利用していたとしても、それが個人番号の代用である場合には個人番号の利用となる。特定個人情報を特定個人情報保護ファイルとするには、システムに個人番号を登録する、個人番号を見つつ書類の並び替えをするなどの個人番号の利用が必要になるが、これが可能なことについては特に明文の規定が置かれていない。しかしながら、これが可能でなければ、第1項の規定は意味のない規定となるため、当然に特定個人情報から特定個人情報ファイルを作成するための個人番号の利用は認められると解される。

第2項では、地方公共団体は条例を定めることにより個人番号を利用できることを規定している。ただし、利用できるのは、福祉、社会保障、地方税及び防災に関する事務に限られる(類する事務とはこれら分野に含まれる事務と解されるべきである。)。この背景には、「社会保障・税に関わる番号制度についての基本方針(政府・与党社会保障改革検討本部 、平成23年1月31日)」において、『番号制度として新たに導入される「番号」を本人が利用できる分野は、国民の利便性、導入コスト、プライバシー保護等を勘案しつつ、年金、医療、福祉、介護、労働保険の各社会保障分野、国税及び地方税の各税務分野とする。』とされたことがある。ただし、その後の検討により、防災に関する事務が追加されている。

第3項では、法令又は条例により個人暗号を記載した書類の提出等を義務付けられたものは、個人番号を記載した書類の提出等ができることを記載している。多数の法律が記載れているもののその他の法令が含まれており、掲げられている法律は単なる例示であり、立法時において認識されていた法律というだけの意味しかない。利用という表現が用いられているが、第1項及び第2項の事務が「個人番号利用事務」であるのに対して、第3項により実施する事務は第2条第10項において「個人番号関係事務」とされており、個人番号を利用するというよりもむしろ個人番号を取り次ぐ事務と解される。「効率的に検索し」との規定はないことから、個人番号関係事務においては、個人番号を検索等にもといることは認められていないと解される。また、「効率的に管理」との記載もないことから、データベースのキーとして利用することも認められていないと解されるべきである。

第4項では、個人番号関係事務を行う個人番号関係事務実施者のうち特に所得税法第二百二十五条第一項第一号、第二号及び第四号から第六号までに掲げる者は、激甚災害の発生時に金銭の支払いのために個人番号を利用できることを規定している。所得税法第二百二十五条第一項第一号、第二号及び第四号から第六号までに掲げる者とは、所得税法第23条第1項(利子所得)に規定する利子等の支払をする者、所得税法第24条第1項に規定する配当等の支払をする者、生命保険契約(保険業法第2条第3項(定義)に規定する生命保険会社若しくは同条第8項に規定する外国生命保険会社等の締結した保険契約又は同条第18項に規定する少額短期保険業者の締結したこれに類する保険契約をいい、当該外国生命保険会社等が国外において締結したものを除く。第6号において同じ。)に基づく保険金その他これに類する給付で政令で定めるものの支払をする者、損害保険契約(保険業法第2条第4項に規定する損害保険会社若しくは同条第9項に規定する外国損害保険会社等の締結した保険契約又は同条第18項に規定する少額短期保険業者の締結したこれに類する保険契約をいい、当該外国損害保険会社等が国外において締結したものを除く。次号において同じ。)に基づく給付その他これに類する給付で政令で定めるものの支払をする者及び生命保険契約、損害保険契約その他これらに類する共済に係る契約の締結の代理をする居住者又は内国法人に対し国内においてその報酬の支払をする者であり、銀行、証券会社、生命保険会社、損害保険会社等である。これらの者は、個人番号関係事務のために取得している個人番号を契約に基づく支払いのために用いることができる。その具体的な内容は内閣府令に委ねられているが、例えば法第17条第12号の「生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合において、本人の同意があり、又は本人の同意を得ることが困難であるとき」の規定及び法第13条の「何人も、第十七条各号のいずれかに該当して特定個人情報の提供を受けることができる場合を除き、他人(自己と同一の世帯に属する者以外の者をいう。第十八条において同じ。)に対し、個人番号の提供を求めてはならない」の規定に基づき、個人番号の提供を求めることにより提供をうけ(ちなみに、契約に基づく金銭の支払いは個人番号関係事務ではないため、金銭の支払いを行うために法第11条第1項に基づき個人番号の提供を求めることはできない。)、当該個人番号を保有する特定個人情報ファイルから検索することにより契約を特定し、当該契約に基づき支払いを行う等が想定される。このように、第4項では、第1項及び第2項と同様に、特定個人情報ファイルにおいて個人情報を効率的に検索するために個人番号を利用することを認めるものである。なお、法第17条第12号及び法第13条により個人番号の提供を求める場合には、法第12条に定める本人確認の措置は不要である。すなわち、住所、氏名等が不明で本人確認ができない状況であっても、個人番号さえ把握できれば(本人から把握する必要もなく、誰からでも良い)損害保険や生命保険の支払いができ、住所変更等の届出を忘れていた際にも支払いを受けることができるという効果が期待される。

第5項は、以下の場合に個人番号を利用可能なことを定めるものである。
法第17条第10号 第四十七条第一項の規定(委員会は、この法律の施行に必要な限度において、特定個人情報を取り扱う者その他の関係者に対し、特定個人情報の取扱いに関し、必要な報告若しくは資料の提出を求め、又はその職員に、当該特定個人情報を取り扱う者その他の関係者の事務所その他必要な場所に立ち入らせ、特定個人情報の取扱いに関し質問させ、若しくは帳簿書類その他の物件を検査させることができる。)により求められた特定個人情報を個人番号情報保護委員会に提供するとき。
法第17条第11号 各議院若しくは各議院の委員会若しくは参議院の調査会が国会法(昭和二十二年法律第七十九号)第百四条第一項(同法第五十四条の四第一項において準用する場合を含む。)若しくは議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律(昭和二十二年法律第二百二十五号)第一条の規定により行う審査若しくは調査、訴訟手続その他の裁判所における手続、裁判の執行、刑事事件の捜査、租税に関する法律の規定に基づく犯則事件の調査若しくは租税に関する調査又は会計検査院の検査が行われるとき、その他政令で定める公益上の必要があるとき。
法第17条第12号 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合において、本人の同意があり、又は本人の同意を得ることが困難であるとき。
法第17条第13号 その他これらに準ずるものとして個人番号情報保護委員会規則で定めるとき。

第1項から第4項までの規定を整理すると、下表のようになる。個人番号の利用方法には、「特定個人情報を検索するための利用」、「特定個人情報を管理するための利用」及び「書類への個人番号の記入、情報システムへの個人番号の登録等としての利用」の3種類があり、個人番号利用事務実施者に対しては前2種類の利用が明示的に、最後の1種類の利用が暗示的に可能とされている。個人番号関係事務実施者については、最後の種類の利用方法のみが認められており、前2種類の利用方法は行ってはならない。所得税法第225条第1項第1号、第2号及び第4号から第6号までに掲げる者については、最初の1種類及び最後の1種類の利用方法は、法により認められていると解されるが、真ん中の利用方法についてはその可否が内閣府令に委ねられていると解される。



(本投稿はパロディです)

2013年1月12日土曜日

マイナンバー法案の目的語と述語の整理

マイナンバー法案で何がどう規制されているかは、なかなか分かり難い。そのため、目的語と述語毎に、何条で何が規定されているのかを整理してみた(法人番号は除く。)。

マイナンバー法案で利用等について規制されている対象、すなわち目的語には、「個人番号」、「特定個人情報」、「特定個人情報ファイル」がある。
一方、述語の方には、利用、提供、収集、保管、作成、取扱いという概念が用いられている。

こうして整理してみると、「個人情報を含まない個人番号を提供すること」、「個人情報を含まない個人番号を収集すること」、「個人情報を含まない個人番号を保管すること」、「個人情報を含まない個人番号を取り扱うこと」には特に制限が設けられていないことがわかる。


2013年1月4日金曜日

マイナンバー法案勝手改正案逐条解説:第11条第3項

(提供の要求)
第十一条

3 別表第二の第一欄に掲げる者(法令の規定により同表の第二欄に掲げる事務の全部又は一部を行うこととされている者がある場合にあっては、その者を含む。)は、第十七条第五号の規定により特定個人情報の提供を求めるために必要があるときは、個人番号に対応し、当該個人番号に代わって用いられる番号、記号その他の符号の提供を求めることができる。同表の第三欄に掲げる者(法令の規定により同表の第四欄に掲げる特定個人情報の利用又は提供に関する事務の全部又は一部を行うこととされている者がある場合にあっては、その者を含む。)は、第一項及び第二項の定めにより個人番号の提供を受けているときは、個人番号に対応し、当該個人番号に代わって用いられる番号、記号その他の符号の提供を求めることができる。

併せて、第2条第7項の括弧内の除外規定に第11条第3項を追加する。


情報提供ネットワークを用いた特定個人情報の提供は、符号を用いて対象者を特定することにより行われる予定である。本符号は、第2条第7項の規定により、個人番号となるため、これを取得することができることを明確にすることが第11条第3項の趣旨である。第17条第5号の規定により可能との解釈も可能であるが、地方公共団体における番号制度の活用に関する研究会(第3回)の「資料5 番号制度に対応した地方公共団体におけるシステムの構築の基本的な考え方の整理」の8ページにおいて公表されているように符号の初期取得時に個人番号たる符号を提供するのは情報提供者ではなく情報提供ネットワークシステム、すなわち総務大臣となる予定であり、また、情報の提供を求める先は住民基本台帳ネットワークシステム、すなわち機構が想定されるものであり、第17条第5号の規定と主体が異なることから、別途定めるものである。
ただし、符号の取得については、個人番号を個人番号たる個人番号に代わって用いられる符号へ変換することを求めるものであり、新たに個人番号の提供を求めているものではないことから、そもそも個人番号の提供の要求にはあたらないとの解釈も可能である。第180回国会に提出されたマイナンバー法案は、本解釈に依っている。また、本解釈の下では、個人番号を受取り、対応する符号を提供することは特定個人情報の提供にもあたらず、第17条にも抵触しない。

(本投稿はパロディです)

マイナンバー法勝手逐条解説:第3条第4号

第三条 個人番号及び法人番号の利用は、この法律の定めるところにより、次に掲げる事項を旨として行うものとする。

四 個人番号を用いて収集され、又は整理された個人情報が法令に定められた範囲を超えて利用され、又は漏えいすることがないよう、その管理の適正を確保すること。


本条は、個人番号及び法人番号を利用する際の心構えについて規定するものである。本条の最大の特徴は主語が明示されていないことである。これは、基本理念を示す条項において一般的な特性である。行政庁及び独立行政法人等は、本条の対象か否かを自ら判断することが求められる。また、簡易な手続きを設けるためには新たな法律や既存の法律の改正が必要な場合もあり、行政機関における法制に関する事務の実施に際してや立法府に対するメッセージでもある。ただし、行政機関、地方公共団体その他の行政事務を処理する者に対する義務を規定していると解してはならず、立法趣旨を示したものと理解すべき条項である。


第3条第4号は、個人番号扱う行政庁、独立行政法人及び民間事業者は、個人番号を用いて整理された個人情報が法令に定められた範囲を超えて利用されたり漏えいしたりしないよう管理を適正に行う必要がある旨を記したものである。

本条を解釈するにあたり第一に留意が必要なのは、個人番号を用いて個人情報を収集することはそもそも第18条により禁止されていることである。したがって、個人番号を用いて収集された情報を行政庁等が保有することはない。「個人番号を用いて収集された個人情報」との記載は、「個人番号(個人番号に対応し、当該個人番号に代わって用いられる番号、記号その他の符号であって、住民票コード以外のものを含む。)を用いて提供を求めることによって提供を受けた個人情報又は個人番号と共に提供を受けた個人情報」を省略して記載したものと解される。いわんや、個人番号を用いて国民を指定し情報を提出させること(国民を番号で管理するような活動)を行政庁は行ってはならない。

第二に留意が必要なのは、「利用目的の達成に必要な範囲を超えて利用され」ではなく、「法令に定められた範囲を超えて利用され」となっていることである。このように、特定個人情報については、取得時の利用目的と無関係に、法令に定めのない範囲で利用されないよう管理の適正を確保する必要がある。

漏えいすることがないよう管理の適正を確保することが必要なことについては、言をまたない。


2013年1月3日木曜日

引用:地方公共団体によるものは「国家による一元管理」に含まない

マイナンバー法案の読んでいて、何がどうおかしいのかわからないのだけれど、どうも腑に落ちないところがあったのだが、今さらながら昨年7月の堀部政男情報法研究会(第5回 シンポジウム)の産業技術総合研究所高木浩光 主任研究員の報告資料の下記の記述を拝見して、妙に納得しました(タイトルも引用です)。

  • 地方公共団体によるものは「国家による一元管理」に含まない
  • 地方公共団体との結託のリスクは受容(規模が部分的)

個人情報保護法からして国の行政機関と地方公共団体は建付けが違うところがあるわけだが、少しステレオタイプが過ぎるかもしれないが、同報告資料の「反対派が台頭してこないのはこの約束が効いているため」の反対派の多くは、地方分権推進派だろうと思われるので、地方公共団体(特に基礎自治体)が特定個人情報を利用するにあたって分野横断的に自由に使えることに対してマイナンバー法案の考慮が薄くても、立法担当者の体力配分としては合理的な進め方なのだと納得しました。